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人事異動を拒否させない!上手に社員を転勤させる方法
2019/09/19
転勤命令は拒否できない!?
「転勤」というとネガティブなイメージでとらえる方も多くいます。慣れ親しんだ職場を離れて新しい地域へ赴任することは、環境だけでなく周りの人たちも変わり、新しい環境や職場に馴染めるか、また家族のいる場合には地域のコミュニティも重要な関心事になります。パートナーのキャリア形成にも大きく影響があり、その社員だけでなく家族の反応も様々です。最近では大手保険会社のAIGが「望まない転勤の廃止」を掲げて新卒応募者を大きく伸ばしたことも話題を呼び、若年層を中心に転勤に対する意識は大きな変革期を迎えています。しかし一方で、個人のキャリアアップ、マンネリや癒着の防止、各拠点における適切な人材バランスの均衡など、ローテーション人事が無ければ事業の成長が停滞するという考えは否定できるものではありません。
転勤は重要な企業活動であることは裁判所でも強く肯定されており、並の事由で拒否できないことは既に多くの判例を見れば明らかです。我が国の総合職(非限定社員)は、地方に行けと言われれば数週間後には地方へ、海外へ転勤しろと言われれば数か月後には海外へ、即答で引き受けることが当然の「制限なく会社の命令に従う社員」と扱われてきました。拒否することは許されず、転勤を拒否することはすなわち、「自主退職」もしくは「解雇」の厳しい現実が待っています。もちろん、転勤拒否による解雇無効を争えばもしかすれば元に復職したり、損害賠償金を受け取ることができるかもしれませんが、未払残業代請求などと違い転勤者の多くがあきらめている現実は、事実上大きなパワーバランスがあることは疑いようもありません。しかし、あまりに強権を発動して労働者の意思を無視していると、優秀な人材の流出によって競合他社や海外企業との競争力をじわじわと失うことになります。会社に強い命令権があるからからと言って何の慈悲も無く命令を下すようでは本人のモチベーションはもとより、職場全体にもマイナスの影響を与えることは想像に難くありませんが、未だに多くの企業で「パワハラまがいの転勤命令」が横行しているのは命令者自身が転勤に関連する法律に疎く、無知なまま上からの命令を遂行しているに過ぎない点にあります。会社が転勤体質である以上やむを得ない一面もありますが、転勤に関する基本的なルールや法律を交えて「上手に転勤させる方法」を検討していきます。
転勤を命じることのできる対象であるか
配置変更や人事異動によって勤務先住所を変更する場合には基本的に、『就業規則』や『雇用契約書(労働条件通知書)』などによって勤務地の変更があること、勤務地を限定しない旨が明示されていることが大前提となります。就業規則や労働契約書を用意していない場合には命令を下すことはできないと思うかもしれませんが、こと転勤に限っては『通常必要と考えられる事業活動』とみなされているため、勤務地限定社員として実態上合意がなく無制限の権利行使でなければ命令を下すことは可能といわれています。
転勤命令は有効か
理由なく転勤を命じることはできません。つまり、「なんとなく」や「気に入らない」という理由での配置転換は権利の濫用となり基本的にはできないことになります。ドラマや映画では上司に嫌われて飛ばされた地方から復帰を目指すサクセスストーリーが描かれますが、本来なら有効とは認められそうもありません。
転勤命令の要件
✅業務上の必要性
✅不当な動機や目的でのものではないか
✅通常甘受すべき程度を「著しく超える」不利益とならないか
以上は最低でも押さえておかなければなりません。
転勤で最も有名な最高裁判決では、「業務上の必要性について、当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当ではなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである。(東亜ペイント事件・最高裁判決S61.7.14)」と、業務上の必要性を幅広く認めたため、不当な動機や転勤の必要性が無いことを証明することは大変困難になります。つまり、本当は気に入らない理由でも、『適当な業務上の必要性』を用意して転勤を命じることも現実には多いのかもしれません。
通常甘受すべき程度を超えるか否かについては、保育園の送り迎えができなくなることを通常甘受すべき程度とされたケンウッド事件(最高裁判決H12.1.28)のほか、社員が敗訴した判決は多くありますが、今後は平成14年より施行された育児介護休業法に設けられた「配慮義務規定(第26条)」によって配偶者の精神疾患の援助を理由に転勤命令を無効と判断したネスレ日本事件(大阪高裁判決H18.4.14)や障害のある父の支援を理由に転勤を無効としたNTT東日本事件(札幌地裁判決H18.9.29)など、判決のバランスが変化しつつあることは知っておかなければなりません。
(育児介護休業法26条)
事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。
昔と現在の生活状況変化を考慮する
長年会社に勤続してくれているような場合には、雇用時点から私生活が大きく変化しているのは当然です。住宅を購入したり、新しい家族が増えたり、恋人ができたりするほか、家族の介護が必要となっていたり、養育が必要な子供が増えていることもあります。仕事上で過度に私生活のことを質問するのはハラスメントのリスクがあるため慎重に行わなければなりませんが、現在の生活スタイルを確認することは大切です。内示は突然訪れるため、事前にすべての部下の私生活を把握することはできませんが、私生活の変化と転勤に対する意識、アンケートを取得しておくといざという時の手続きがスムーズに進みます。
拒否された場合にはどうするか
転勤と命じられて動揺しない社員はいません。いろんな不安があるため反応は様々ですが、最終的に拒否することを意思表示した場合にはどのように対処するのがベターな方法でしょうか。もちろん、いきなり懲戒解雇を言い渡すようでは有効性を争われた場合敗訴する可能性を高めるため、手順を確認します。
1.転勤拒否の事情を書面で提出させる
2.本人の言い分に信憑性のある裏付け資料を提出させる
3.通常甘受すべき程度を「著しく超える」不利益に相当するか協議する
4.社内における配慮が可能か検討する
5.再度通知し承諾を取り付ける
それでも拒否する場合の処分は最終手段としての懲戒解雇を避ける方法(退職勧奨や普通解雇など)を弁護士や社労士等専門家へ相談することをお勧めします。業務に関連しない家族の事情で人事権の範囲を変更することは、独身者や未婚(事実婚含む)に対して不公平とも考えられるため、社内で公平な制度設計を十分検討することが必要です。また、強く拒否した人間だけを免除するような『ゴネ得』を許すと、後からマネする人間や不公平の不満によって指揮命令権が弱くなり職場の秩序が維持できなくなります。結果は同じでも、プロセスを重視しながら進めることが重要です。
おわりに
SNSなどインターネット上では転勤を悪である風潮が強くありますが、現実的なビジネス遂行上においては最高裁も判事している通り多くが「有効」と扱われます。もちろん、個人の性格によっては変化を好むタイプとそうでないタイプに分かれ、また出世に対する考え方も人それぞれです。赴任すれば支度金や手当など『リスクプレミアム』で対応している会社も多くありますが、待遇の問題ではないと考える人もいます。つまりは、転勤に対する反応は人それぞれであるため、会社の決定は覆りませんがせめて慈悲のある配慮を尽くすこと(配慮義務)が従業員のモチベーション維持と紛争リスク回避には必要です。
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【記事監修】RESUS社会保険労務士事務所/山田雅人(宅地建物取引士・社会保険労務士)
大企業・上場企業を中心に10年にわたり全国500社以上の人事担当と面談、100社以上の社宅制度導入・見直し・廃止に携わった経験を活かし、不動産に詳しい社労士として中小企業の福利厚生制度設計を支援しています。
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