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専任の宅地建物取引士(宅建士)が退職して不足している!

2020/01/07

(最終更新日:2022/4/1)

宅地建物取引業法では、宅地建物の取引に関する専門家としての役割を十分に果たすため、一つの事業所において宅地建物取引業務に従事する者5名につき1名以上の割合で、成年者である専任の宅地建物取引士を設置することが義務付けられています。

専任の取引士となるものは、基本的に「常勤性」と「専従性」を満たさなければならないとされていますが、簡単に言うと、フルタイム勤務可能な正社員であることが必要となります(他業者との兼務や兼業は禁止)。宅建士の専任要件は宅地建物取引業を営むための法定要件であるため、不足している場合には事務所の開設はできず、また開設後に不足した場合でも2週間以内に必要な措置(補充)を取らなければなりません。

違反の場合は業務の停止処分(宅地建物取引業法65条)の他、情状が重いと判断された場合には宅地建物取引業の免許取り消し処分(同法66条9号)、罰則として100万円以下の罰金(同法82条2号)など、極めて重い処分が規定されています。65条違反は名ばかりの罰則ではなく多くの業者が処分されている宅建業法でも指折りの恐ろしい規定です。

しかし、昨今の人手不足や採用難によって中小企業・小規模事業者では宅地建物取引士の数がギリギリか、もしくは不足してはなんとか補充を繰り返している事業所がほとんどのようです。ほんの20年前まではここまで深刻でも無く、募集すればすぐに応募のあった宅建主任者たちはどこへ行ってしまったのでしょうか。

☑大手へ転職!?

昨今の人手不足は何も中小企業だけではありません。従業員数の多い大手不動産会社はその分、宅建士の数も比例して必要になるため、宅建士の採用を積極的に行っています。10年前は有名大卒でなければ入社できなかった大手不動産業者でも、宅建士資格と併せて英語・中国語などの語学力があれば高卒でも採用のチャンスは高いと言います。かつては大手に入ることができないためやむなく中小企業で働いていた層は、人手不足と採用難によって大手に奪われているということも大いにあるでしょう。とはいえ、大手だからと言って宅建士が余分にいるわけではないようですが、チャンスがあるならば中小よりも大手で働きたいのは求職者として普通の心理です。しかし社員を過労死させた野村不動産では裁量労働制の違法適用が慢性化していた報道もあり、決して大手だからと言って労働環境が適切とは思えません。もちろん中小企業でもでたらめな労務管理を行っている会社はまだまだ多くありますが、コンプライアンス意識の高い不動産会社は人手不足はあまり感じていないのが現実です。

☑別業種で資格を活かす

近年は人材定着のための福利厚生制度の一環として、教育に力を入れている企業は多くあります。自分自身が成長しているという実感は会社勤務の大きなモチベーションとなります。国家資格の資格取得は目に見える成長の証のため、教育制度の一環としてもっぱら宅建士資格は好まれて活用されています。宅建業を営まない企業では不要と思われがちですが、事業活動は社宅制度や事務所の移転・統廃合など、あらゆるところで不動産知識を活かす機会があります。宅建免許があれば会社によっては重宝されるチャンスがあります。競争が激しく長時間労働でノルマ主義のキツい(イメージの)不動産業者で人生を浪費するより、他の成長企業で資格を活かしたいと思う人が増えるのも自然なことです。

☑資格を活かさない職に就いている

難易度の高い宅建士資格を取得したにもかかわらず、その資格を埋没させている人も多くいます。人事総務担当者と話していると名刺には記載していないけれども実は宅建免許を持っている人も沢山います。本業と別に自己研鑽を目的として勉強するのに人気なのも宅建資格です。私も20年以上長く不動産業界に携わっていますが、不動産業界に懲りたのか、宅建資格を持っていても離職後は別業界で活躍する方が沢山います。コンプライアンス意識の低い業界は優秀な人材が流出し人手不足となる流れは避けられません。不動産業界全体での就業者数は年々増加傾向にあるものの、合格者数は一定(微増)の為、全体として不足感があることも要因の一つでしょう。しかし不動産業者の求人広告を見ておりますと相変わらず前時代的な「やる気次第で昇給」や「和気あいあいとした職場」など寒いキーワードで必死に誘引しています。こんな求人票に引っ掛かるのは子供ばかりで優秀な人材は寄り付きそうもありませんね。

《不動産業就業者推移(4年生大学卒業者)》

《宅地建物取引士試験合格者推移》

補充のための現実的な対策

☑女性資格保有者の活用

宅建士合格者数のうち女性比率は少しづつ増え始め、ついに平成29年度以降1/3を超え比率は増加を続けています。しかし、不動産業界は長時間労働のイメージが強く、また素性の知れない来店客の案内時に女性営業が危険な目にあった話はよくあるため、業界未経験の女性は「不動産営業はキツイし怖い」というイメージがあります。新卒等の若年層では親が反対するケースもあります。だからといって複数名で物件を案内させることはコスト的にも大変苦しくなりますが、たとえば比較的安全なファミリー客や法人客を専門に対応させたり、長時間労働になりやすい営業だけでなく内勤事務等にもスイッチできる希望転換制度を整備するなど、安全に配慮することは採用戦略的にも優位性を確保できますし、万が一事故が起きた際の訴訟リスク対策にも効果的です。当社の取引先では同様の考え方で、「女性スタッフ中心の完全予約制」として店舗運営を行い労働時間短縮を図ったものの残念ながら予約がいまいち入らず収益が伸びなかったことがありましたが、それでも現状打開のため積極的に事業形態にチャレンジしていくのも人手不足脱却には必要な取り組みです。

最近は女性営業で女性客専門の不動産業者も増えているようですので、女性スタッフ確保を目的として顧客や労務管理を検討することも必要な時期に差し掛かっています。大きな声では言えませんが、女性スタッフの多い職場は男性の応募者も増加します。駅前の不動産賃貸仲介業者は相変わらず男だらけの職場が多いようですが、住宅関係営業は本来性別は関係ないはずです。何が女性の就労を阻害しているのか、自社で話し合ってみてはいかがでしょうか。

年度別合格者数 男(比率) 女(比率)
平成24年度 23,018(71.9%) 8,982(28.1%) 32,000(100%)
平成25年度 19,454(68.3%) 9,016(31.7%) 28,470(100%)
平成26年度 23,358(69.4%) 10,312(30.6%) 33,670(100%)
平成27年度 20,471(68.2%) 9,557(31.8%) 30,028(100%)
平成28年度 20,450(66.9%) 10,139(33.1%) 30,589(100%)
平成29年度 21,677(66.4%) 10,967(33.6%) 32,644(100%)
平成30年度 21,838(65.5%) 11,522(34.5%) 33,360(100%)
令和元年度 24,188(64.5%) 13,293(35.5%) 37,481(100%)
令和2年度 22,051(64.2%) 12,287(35.8% 34,338(100%)

【データ引用:公益財団法人不動産流通推進センター(2021不動産業統計集より)】

☑シニア・ミドル層の活用

不動産の仲介営業はかつては賃貸では40歳まで、売買でも50歳が限界という暗黙の定年がありましたが、高卒・大卒問わずに若年層の採用は熾烈な奪い合いです。それならば、宅建免許を持っているシニア・ミドル層のマネジメントも考慮し、実質的な採用年齢上限を緩和することも検討が必要です。60歳以上の正社員採用の際には助成金があることも多いため厚生労働省の助成金サイトもチェックしておきましょう。

なお、「年齢不問」のキーワードは求人サイトでも上位検索ワードであるものの、求人の母数が少ないため上位露出が増えます。競争の激しい若年層採用で面接スルー・内定辞退されると採用担当者はものすごく落ち込みますが、中高齢者が面接や内定を無視することは少ない印象です。

シニア・ミドル層の活用は将来も事業を行う限りいずれ検討しなければならない時期が来るため、今のうちから検討すると先行者利益もあるかもしれません。物件を探すのと同様に希望の全てを満たす応募者は来ません。有資格者であれば年齢不問、若年層であれば未経験・無資格可とするような、バランスの良い求人方法が必要です。あまり欲張りを続けていると、そのうち従業員は誰もいなくなります。

☑業務委託の活用

専任の宅建士は足りているけれど、実務の重説要員が足りず業務が回らないような賃貸仲介メインの場合には業務委託の形式で副業やフリーランスの宅建士を集めてはどうかと考えることもあります。実は当社も不動産会社から相談を受けて業務委託で宅建士を集めようとしたことがありますが、そんな都合よく有資格者は集まりません。いまならIT重説も可能になったため全国から人を集めることができますが、実務上としては重説実施時間だけでなく、実施日時の調整、顧客管理、重説書類の点検、事前・事後の案内メール送信、書面往復発送手続きのほか、書類の不備、誤り、日程変更など歩留まりも考慮しなければならず、リスク負担をどちらが持つのかはっきりさせておかなければトラブルになりそうです。

☑ダイレクト・ソーシング(ダイレクト・リクルーティング)

ダイレクトソーシングは企業側が人材に直接アプローチする方法で近年注目が集まっています。

宅建士有資格者であればFACEBOOKやTwitterなどのSNSで公開していることもあり、また社員の知り合いなどでもスカウトすることができます。スカウトしておいて『騙された』とならないよう細心の注意が必要ですが、可能であれば従業員達にお願いしてみて他社から引き抜きする方法もアリです。

☑資格取得制度の実施

今いる従業員達に宅建免許を取得させたいのは不動産会社の経営者は皆考えています。それでも何年も社内で合格者ゼロが続いているのは「やる気を維持するための制度」となっていないことが挙げられます。学費や書籍購入代の負担や合格報奨金の支給などを制度化してもなかなか取得することができません。そう簡単に突破することはできない試験ですが、会社として口だけではなく、労働の空き時間で試験勉強を推奨したり、勉強会の会場を提供したり、講師を呼んだり面倒でも積極的に全社で取り組んでいる会社は合格率が高いように思えます。なお、宅建資格手当は割増賃金の基礎に含めなければならないため、あまり高額な手当を支給すると割増賃金も高額になります。残業代計算から間違って除外してしまっている会社もあるようですが、未払賃金となるため退職後に請求されれば最大3年遡った全額の支払いとなります。しかし従業員はなかなか宅建取ってくれなくて経営者は辛いですね。

 

おわりに

有資格者の採用はいざ不足した時に慌てて採用しようとしてもなかなかうまくいくものではありません。宅建士が不足した法定要件を満たすため、無資格者を解雇するなど従業員数を減らすことは現実的には不可能です。免許更新の時期まで離職した専任の取引主任者を登録したままにする名義貸しなど違法行為もかつては横行していましたが、従業員の申告や外部から指導課への通報で発覚すれば大変なこと(免許停止)になります。日々不安な経営を続けるよりも、労働環境を改善し、従業員が辞めない職場環境づくりを進めることは遠回りのようですが最も安全な近道です。

いい会社だと自信はあるのに求人応募が来ない場合には求人方法に問題があります。宅建士が不足しており人材獲得に悩んでいる場合は資格者をターゲットにした採用コンサルティングも行います。人材にお困りの際には当社に是非ご相談下さい。

 

不動産会社の採用代行サービス

 

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【記事監修】RESUS社会保険労務士事務所/山田雅人(宅地建物取引士・社会保険労務士)
大企業・上場企業を中心に10年にわたり全国500社以上の人事担当と面談、100社以上の社宅制度導入・見直し・廃止に携わった経験を活かし、不動産仲介業者に向けた事務代行サービスと、不動産に特化した社労士として人材不足解消に向けた中小企業の採用コンサルティング業務を得意とし、事業主・従業員双方にメリットの高い制度設計など中小企業の働きやすい職場に向けた取組を支援しています。