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会社負担ゼロで社員の手取りを増やせる中小企業向け社宅制度
2023/06/30
テレワークや在宅勤務の増加に伴い、企業の福利厚生制度の見直しが加速しています。
会社員であってもほとんど出勤せず、自宅で仕事を行っている人も多くいます。感染症のリスクや通勤の負担が減るメリットだけでなく、勤務地に制限されない働き方は、家庭の事情のような個々のライフスタイルにフィットできる新しい働き方として優秀な人材をつなぎとめる効果が高いため、今後も「出勤を強制しない働き方」は広がっていくことが予想されます。
しかし、在宅勤務者の家賃や備品等を会社の経費で負担できるのはごくわずか。かといって手当で支給すれば税・社会保険料が差し引きされます。ということで社宅可能な対象エリアを無制限としたり、社員名義の賃貸自宅を会社名義に切り替えるなど社宅制度を見直しする企業が増えています。社宅といえば転勤や単身赴任者に対して会社が提供するイメージがありますが、転勤や単身赴任が無くても社宅制度を導入することは可能です。そして、税・社会保険のメリットの高さから、会社の負担を増やさずに、従業員の手取りを増やす手法として『(現物)給与置き換え型借上げ社宅制度』が近年中小企業でひそかなトレンドになっています。
コスト負担や面倒な手続きが増加するイメージによって中小企業では導入を敬遠しがちな社宅制度ですが、今回は会社の負担が実質ゼロで社員の手取り額だけを増やせる「中小企業にやさしい」制度設計を簡単にご案内していきます。
給与置き換え型の基本設計
会社の金銭的負担をなくし、制度のメリットを最大限享受するための基本設計は以下のようなイメージとなります。
① 個人名義の賃貸住宅を会社名義に変更し、会社から家賃を支払う
② 会社の家賃負担は50%とし、会社負担と同額を給与から減額(会社の負担は実質ゼロ)
③ 契約一時金や退職時原状回復費用の負担は原則入居者負担とする
給与置き換え型メリット
◎会社負担分が全額損金扱いとなる
会社が家主に支払う家賃と、従業員から徴収する「家賃相当額」の差額を会社の損金とすることができます。例えば会社の家賃負担が50%、家賃が10万円だったとすると、5万円は損金算入することができます。また、一時金についても会社での負担を規定しておけばほぼすべて会社の経費にすることができますし、逆に一時金は全額従業員負担とすることも可能です。
◎従業員の手取りが増える
社宅制度を導入することで、従業員個人が負担する所得税・住民税など税金の負担や、社会保険料が減るため、実質的な手取り額(可処分所得)を増やすことができます。
例えば給料として毎月30万円貰っている従業員が10万円の家賃を自分で支払っている場合、所得税・住民税・社会保険料を引いた残りの額、つまり振込された給与から家賃を支払っています。
給与置き換え型の社宅制度を導入するとどうなるでしょうか。家賃10万円の半分を会社が負担し、その会社負担分を給与から減額する場合、従業員は25万円となりますが、税・社会保険はその25万円に対する率で天引きされ、その残りから社宅使用料として5万円が天引きされます。
従業員の給与は25万円と下がったように見えますが、会社が家賃の半額を負担していますし、また5万円分の税・社会保険料の負担が減るため、結果として自由に使えるお金が増えるという仕組みです。会社が負担する家賃相当額は従業員の給与を減じて相殺しているため、実質会社負担はゼロとなります(もちろん、会社の事務コストは増加します)。
少しテクニカルな話になりますが、会社は一方的に従業員の給料を減じることは許されませんので(労働契約法8条他)、利用する労働者が自由な意思の下、社宅制度を利用する選択を行ったことを証明するために、社宅規定だけでなく従業員説明会や利用申請書への署名、また嫌なら戻す選択肢もあり得ることの説明など、あくまでも任意であることを記録しておくのがポイントです。
◎会社の社会保険料負担も減る
社会保険料は標準報酬月額によって算出され、給与や手当に応じて階段状に負担が増えていく仕組みです。そして、社会保険料は会社と従業員が折半で負担するため、会社と従業員の双方に社会保険料の負担が減るメリットがあります。制度導入によって増加する会社側の事務コストも、制度導入によって減った社会保険料と比較すれば十分回収できます。
給与置き換え型のデメリット
賃貸契約が法人名義になるということは、賃料の支払いや更新解約手続きなどの事務コストが増加するだけでなく、社宅に万一の事故があった場合など会社の責任も増加します。また、基本給が減るということは将来の年金額だけでなく、育児休業や失業手当の受給額にも影響し、また基本賃金の単価も下がるため時間外労働の残業手当や賞与額にも影響します。もっと言うなら退職時には退去しなければならないのか、名義を個人に戻すのか、そういったあらゆるリスクについて想定し理解しておくことは必要ですが、あらゆる福利厚生制度にリスクやデメリットは伴います。最強の福利厚生制度とも言われる社宅制度を導入しない経営者側の理由(屁理屈)は山ほどありますが、そもそも福利厚生制度とは、『社員たちが喜ぶ制度なのか』をよく考えて判断することが大切です。そういう会社の考え方はしっかりと従業員に伝わり、採用や定着にも少なからず影響するものです。
おわりに
社宅制度は税法や社会保険法上の原則的なルールがあるとはいえ、比較的企業の裁量によって負担を設定することができます。転勤者や単身赴任者の契約一時金を全額自己負担とするには違和感がありますが、希望者に対する福利厚生制度としての給与置き換え型であれば、契約一時金を全額負担してでも会社名義の社宅扱いしてほしいと希望する人は多いはずです。むしろ、税・社会保険の仕組みに少しでも知識があり、すぐにでも退職を考えていない限りは、このような制度があれば積極的に使いたいと思うのが当然です。
企業にとって負担の大きいイメージのある社宅制度ですが、工夫次第で会社の負担もほとんどなく、従業員にとってメリットも大きいWIN-WINの制度設計が可能で、役員社宅制度にも転用することができます。現物給与置き換え型の社宅制度は時代的にも非常にマッチしており、今後ますます導入する企業が増えていきそうです。
➡借り上げ社宅制度の基本的な導入手順はこちらから(規程ひな形付き)
【記事監修】RESUS社会保険労務士事務所/山田雅人(宅地建物取引士・AFP・社会保険労務士)
大企業・上場企業を中心に10年以上にわたり全国100社以上の社宅制度導入・見直しに携わった経験を活かし、不動産仲介業者に向けた法人契約事務代行サービスの提供と社宅代行会社向け実務運用コンサルティング、また日本で一番社宅制度に詳しい社労士として中小企業の社宅制度導入をサポートしています。「ネットや本でも出てこなかった。もっと早く知りたかった。」というお客様も多いので、本記事で紹介してみました。
いますぐお問い合わせする(☎:06-6306-6536)
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