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人事部が知っておくべき転勤社員の税・社会保険事務手続き
2019/09/17
税・社会保険の転勤事務
従業員に転勤が命じられた場合、人事を管轄する部門ではしなければならない手続きが発生します。春など一定時期に集中して人事異動の発生するような大企業ではマニュアル化されていますが、中小企業では人事担当者へ具体的な手続きの指示がないまま属人的に業務を行っており、経験のある担当であれば手続きを忘れていたり間違えたりは少ないと思われますが、担当者の突然の退職や休職となった際に、新任担当者では大変混乱します。社内の転勤申請や交通費変更届を忘れていても社内の問題で解決できますが、法律上義務付けられた手続きを忘れると大変なことになるかもしれません。気になる公的変更手続きを押さえておきましょう。
1.住民税の変更
住民税は1月1日に住所地のある自治体へ前年1年間の所得に対して納税する後払い方式(前年課税原則)となります。『従業員が転勤により、住所の市町村に変更があった場合は給与支払者(特別徴収義務者)より市町村へ「給与所得者異動届出書」の提出が必要』と市町村のホームページに記載があるため、何か必要な手続きがありそうですが、実は行政用語の『転勤』とは一般に使われる『転職』という意味で使われます。住民税の変更は本人が転居届を行えば自動的に翌年変更となるため、転勤の際に会社で住民税に関して行う手続きはありません。
なお、転職や退職の場合は手続きが必要となり、遅れた場合には事業主(特別徴収義務者)の滞納扱いとなり督促状が送付されてくるため社内は大騒ぎになります。忘れないようにしましょう。
異動事由 | 異動時期 | 異動届の提出期限 | 異動翌月以降の徴収 |
転職の場合 | ― | 異動した月の翌月10日まで | 転職先の特別徴収義務者で特別徴収 |
退職など | 6/1~12/31 | 異動した月の翌月10日まで | 納税義務者が直接納付(普通徴収)
※納税義務者からの申し出により最終給与等から一括徴収 |
1/1~4/30 | 異動した月の翌月10日まで
※前年1月1日時点の住所地が異なる場合は新しい住所の市町村へ給与支払報告書を提出 |
最終給与等支払時に一括徴収(地方税法第321条5) |
2.社会保険(健康保険・厚生年金・介護保険)の変更手続き
社会保険は事業所単位での加入扱いとなるため転勤によって勤務先事業所が変更となった場合には原則として変更手続き(得喪手続き)が必要となりますが、異動先に事務担当者がおらず、本社で一括加入している場合は手続きの必要はありません。
また、被保険者の引越しによる転居手続きについては2018年3月より日本年金機構と地方公共団体情報システム機構(J-LIS)との連携によって4情報(氏名・性別・生年月日・住所)が合致した場合に限り基礎年金番号とマイナンバーが紐づけられ、住所登録と社会保険が自動的に連携するため手続きは不要になりました。なお、『マイナンバーと紐づいている』かどうかは日本年金機構から『住所一覧表』を取り寄せするなどして確認する必要があります。(マイナンバーを届出しているからと言って必ず紐づいているとは限りません)
本社で一括適用を行わず事業所ごとに手続きを行っている場合
元の事業所にて「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を、新しい事業所にて「健康保険・厚生年金被保険者資格取得届」をそれぞれ管轄する年金事務所(広域事務センター)へ転勤翌日から5日以内に提出する必要があります。また、健康保険組合の場合は別途手続きが指定されていることがあるため確認が必要です。
➡従業員及び被扶養配偶者の住所に変更があったときの手続き(年金機構リンク)
3.労働保険(労災保険・雇用保険)の変更手続き
社会保険同様に、労働保険も事業所を単位として適用しますので、『事業所非該当承認申請書』によって管轄公共職業安定所の承認を受けて一つの事業場とみなされている場合を除き、雇用保険の変更手続きが必要となります。
(事業所非該当承認について)各事業所の負担軽減や利便性向上を目的として事業所非該当承認申請を希望される事業主がいますが、事業所非該当承認は『経営組織としての機能と独立性を有しない事業所』を承認するものであり、事業所が独立性を有すると行政側で判断された場合には承認されないことがあります。実務上は本社で各支部の手続きを行いそれぞれの管轄行政機関へ提出を行う分は差し支え無く多くの事業主でも実施しているため、転勤届の要不要は一括して手続きを行っているかどうかではなく、非該当承認を受けているかどうかで判断が必要です。
それぞれの事業所が雇用保険の適用を受けている場合
新しい事業所を管轄する職業安定所へ「雇用保険被保険者転勤届」を転勤翌日から10日以内に提出する必要があります。その際、労働者名簿や賃金台帳のほか異動辞令の写し等の確認を求められることがありますので、念のため準備しておきましょう。
転勤届はなぜか厳格で不備があれば受理が完了せず何度でもやり直しを求められます。しっかり注意点を押さえておきましょう。
✅書式倍率の変更を行っていないか
✅賃金台帳・労働者名簿・異動辞令の写し
✅転勤前事業所に交付されている雇用保険被保険者資格喪失届・氏名変更届
なお、労働保険についてはもともと従業員の住所登録がありませんので、非該当承認を受けている場合には転勤によって住所に変更があった場合でも手続きの必要はありません。
おわりに
一定の規模になると転勤や人事異動は必要不可欠な企業活動となります。転勤シーズンになると転勤者はもちろんのこと、人事部門においても大量の業務が発生し、行政機関への変更手続きは期限も短いため変更手続きに取られる時間は相当なものになります。最近は電子申請による届出が可能な手続きもあるため、紙ベースでの作業に比べると少しは作業が軽減されていますが、転勤に伴う膨大な事務コストも無視できません。労働を管理する人事部門が長時間労働では本末転倒です。転勤業務においても様々なアウトソーシングサービスがあるため、自社に合ったものを探すことも『人事部の長時間労働対策』に必要です。
【記事監修】RESUS社会保険労務士事務所/山田雅人(宅地建物取引士・社会保険労務士)
大企業・上場企業を中心に10年にわたり全国500社以上の人事担当と面談、100社以上の社宅制度導入・見直し・廃止に携わった経験を活かし、不動産に詳しい社労士として中小企業の福利厚生制度設計を支援しています。
事務所の移転手続きに関するご相談は当社までお気軽にお問合せ下さい
☎:06-6306-6536
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