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シェアハウスを借上げ社宅として法人契約するときの実務ポイント
2021/10/04
リビングやキッチンなど住宅設備や空間を共有するシェアハウスは都市部だけでなく全国的に広がっており、デザイン性の高い住宅やユニークなサービスを付帯させるなど法人・個人を問わず多くの事業者が参入しており、市場の拡大に伴い一般個人だけでなく法人に貸したいシェアハウス事業者や会社の社宅(社員寮)としてシェアハウスを利用したいという双方のニーズも高まっています。
仕事に疲れて帰ると誰かが「お帰り」と言ってくれる広々とした共同リビングや、ジムや大浴場、音楽スタジオやシアタールームのような自宅ではありえないような豪華な施設が併設されているシェアハウスは年齢を問わず魅力的です。法人としては人材の定着や人手不足解消のため住居関係の福利厚生制度を拡充させることも人事戦略上重要な検討事項となります。
運営会社やオーナーからすれば繰り返し契約が見込まれる安定収入や滞納リスクの低い法人契約を取り込みたいのは当然ですが、さて借りる側の会社として注意しておくべきポイントとはどんなところでしょうか。
賃料が経費として認められるための税法上・社会保険法上の社宅については別のページでご確認いただくとして、今回は、シェアハウスを借上げ社宅として扱おうとするときに確認しておくべきポイントについて、社宅制度のコンサルティングを10年以上専門に扱ってきた当社が実務上の視点でまとめました。借主法人だけでなく、貸したいけど借り手がつかないオーナーの悩み解決のヒントもあるかもしれませんのでご一読ください。
そもそも、シェアハウスとは何か
共同住宅の省コストを目的として古くから利用されている「間借り(間貸し)」を現代化し、特定のスペースを共同利用することによって、入居者同士のコミュニケーションを広げることを目的としていることが特徴で、近年都市部を中心に急速に広がっています。
シェアハウスは賃貸住宅の一種ですが、一般の賃貸住宅とは異なり、リビング、台所、浴室、トイレ、洗面所等を他の入居者と共用して、共用部分の利用方法や清掃・ゴミ出し等に関する生活ルールが儲けられていることが多い点が特徴です(国交省シェアハウスガイドブックより)。
市場も成熟に向かい、関係法律も整備が進み始め、貸す側も借りる側もニーズが高い一方で、転勤が実質制度化されている大企業だけでなく、中小零細企業においてもシェアハウスはほとんど社宅として利用されていません。法人契約ではどんなハードルが利用を躊躇させているのでしょうか。
人間同士が関係する以上、トラブルが増加するのは当然として、違法ローンによって社会問題となっているビジネスや、区分所有マンションの管理組合の許可を得ずに利用し裁判沙汰になったケース、建築基準法を無視した居室の細分化による貧困層ビジネスなどトラブルとなっている関連ニュースも多発しており、リスクを敬遠する一般の経営者感覚からすればややこしい話にあまりかかわりたくないと思うのも無理はありません。とはいえ、若者を中心に利用が広がっている以上、従業員から利用について相談も増えるでしょうし、会社としては福利厚生充実のチャンスとして今後シェアハウス活用を検討していくこともまた自然な流れと言えます。
関係法律と権利関係の確認
シェアハウスの契約に関連する法律は平成29年4月に公布された住宅セーフティネット法のほか、旅館業法、借地借家法のほか、隣接の住宅宿泊事業法(民泊新法)など多岐に渡り、またその解釈はその物件ごとの利用実態や契約期間など、契約形態によって異なります。
会社として利用する場合には住宅セーフティネット法の登録があることなど、違法シェアハウスではないことの確認のほか、利用者本人に対してはシェアハウス毎に定められるルールと併せて、会社の制度利用に関するルールを遵守させるよう、利用誓約書等を作成して署名させる必要がありそうです。
契約当事者である会社は、従業員個人が社宅で起こしたトラブルであっても対応する義務があり、場合によっては使用者責任を問われて損害賠償を請求されるリスクがあるため、シェアハウスに限らず社宅制度を導入・利用させる際は権利関係をしっかり押さえ、利用者本人にも十分理解させておくことが基本です。
トラブル発生時の使用者責任
前述の権利関係の確認の続きとなりますが、住宅では失火・漏水・設備不良だけでなく、騒音トラブルなど様々な問題が発生します。加えて社宅の場合は退職時の退去だけでなく無断欠勤や行方不明となった場合の明け渡し対応など、労務管理上の対策も踏まえた運営と管理に責任があります。私生活の自由が確保されているため、会社契約するシェアハウス内で新型コロナのクラスターが発生した場合の責任まで負うリスクは低いと考えられますが、重度後遺症や死亡した場合などは今後の状況によってどうなるか不明です。
不法行為によって第三者に損害を与えるような金銭問題となった場合には、裁判でも強く支持されている報償責任の考えから会社の責任はまず免れることはできませんので、従業員が居室内で亡くなった場合なども大げさではなく、ありえるリスクとして想定しておく必要があります。
また、契約上は会社が従業員に貸与(転貸)する形式になりますので、会社が受け取る従業員からの賃貸料相当額が著しく少額でない限り、居宅を利用できないような物件の設備不良(瑕疵)やトラブルがあった場合には貸す側である会社の責任ともなりえます。
契約する物件が居住者の自主性に任せた運営ではトラブルになるのは目に見えています。常駐する管理人などプロの業者が責任をもって対応しているなど、管理が適切になされているかどうかも契約の重要なポイントになります。家主自主管理は一般物件ならOKですが、シェアハウスを法人契約する場合は避けた方が良いかもしれません。
社宅規程上の扱い
シェアハウスはその内容によっては単なる使用貸借やサービスの利用とされ住居としては認められないことも考えられます。その場合は税務署に経費を否認され追徴されたり、現物給与として社会保険料の修正を求められるなど行政指導の可能性があります。まさかあり得ないとお考えかもしれませんが、処分された事業主は皆、まさか自分はあり得ないと思っていた事業主です。関係監督官庁の解釈はともあれ、シェアハウスを従業員に利用させ経費計上することの根拠については社宅規程にしっかり盛り込んでおくことが行政対策の基本です。例えば、借上げ社宅の適用範囲にシェアハウスを含めるなど、規程に明文化することをお勧めします。たった一言が何百万円を左右するかもしれません。
個別契約上の不利益事項
住宅はその物件ごとにそれぞれ固有の契約内容があり、サイト上では賃貸物件と記載されていても、契約書には一時使用貸借と記載されていたり、何も記載されていないことがあります。一時使用貸借であることだけをもって社宅と認められないことはありませんが、(借地借家法上の)借家扱いを免れることによって貸主都合の契約解除や賃料(利用料)変更を認めやすくする目的があります。借主にとって不利益が大きく、貸主に優位すぎる契約内容は法人契約では不可と扱うべきですが、いざ蓋を開いてみるまではわからないのが通常のようです。引っ越し会社の手配や新入社員の入社手続きと一括している場合には契約キャンセルだけの問題ではなくなり最悪、着任日に出社できないなどトラブルとなることが想定できます。
また、シェアハウスの契約は一定の「借りなければならない期間」を定めていることがあり、数カ月分を前払い(デポジット)したり、途中解約の場合は満たなかった期間分の差額賃料を違約金として請求されることがあります。一般物件でも1か月程度の短期解約違約金なら地域商習慣で約定されていることがよくありますが、シェアハウスの場合は1か月を超える違約金となることがあり、たとえ自己都合で退職したとしても、高額な違約金を本人負担にすることは問題がありそうです。
不動産会社に頼む場合であれば、事前にNGの条件を伝えておけば紹介されることはありませんが、プロの不動産仲介会社を介さない直接契約が一般的(そのぶん仲介手数料もかからない)なシェアハウスにおいては、法人契約に不慣れなオーナーや運営会社では法人契約も個人契約も単なる契約名義人の違いだけと考えていることがあります。契約書だけでなく登記事項など権利関係まで借主となる自社でしっかり確認が必要になりますし、その内容にどんなリスクがはらんでいるか見抜くためには一定の経験と知識が必要です。シェアハウス事業者が法人契約OKなのは当たり前で、借りる側がOKかどうかが問題です。社宅規程の整備や税務・労務など実務的な法務面から契約上のデメリットについては事業主自身で考えなければなりません。なんでもOKはNGです。
住み続けることができない!?
シェアハウスは建物所有者から業者(運営会社)が一括で借上げし、居住者に対して転貸するサブリース型のビジネスモデルが主流です。この場合は所有者やサブリース会社が経営破綻した場合には退去しなければならないケースがあります。物件の所有者や運営会社の破綻は社宅制度の労使関係上では従業員の責任ではなく、社宅は事業活動のための制度である以上は会社の責任と扱われますので、退去の引っ越し費用や転居先の契約一時金など、物件の退去によって生じる費用を本人に負担させることは労働基準法16条(賠償予定の禁止)の観点からも望ましくありません。これは、本人が気に入って決めた物件であっても同様と考えられます。物件の契約に絡む関係者全ての財務状況や与信を確認することはなかなか難しいため実務では窓口の業者だけで判定することになりますが、ビジネスとして未成熟な市場の場合は最大手であっても法改正等によって大きくつまずく可能性があります。
また、シェアハウスの契約期間は6か月~12か月が中心の「定期借家契約(借地借家法第38条)」が大半であり、契約更新できない(更新できるかわからない)ものもあります。更新満了による退去も社宅契約の場合は会社都合と扱われるため、転勤が制度化されている大手企業や社宅代行会社では「定期借家は契約NG」としている会社がほとんどであり、法人契約で最大のハードルは定期借家契約であるといえます。入社時の呼び寄せによる一時利用やプロジェクトなど利用期間が決まっている場合でなければ、入居期間の制限や退去費用の負担区分を定めて無駄な支出が無いよう規程を整備しておく必要がありますが、福利厚生制度の公平性の観点から、シェアハウス入居者だけ特別に退去費用全額を会社が負担することもできませんし、根拠規程が無いにもかかわらず、「常識」を理由に費用を個人負担させることもできません。柔軟性のある中小企業であれば個別に特例も認めてもよいかと思いますが、大企業では例外を認めづらく判断が難しいところがあります。
とにかく転居費用程度であれば会社からすれば少額なため大した負担にはならないかもしれませんが、想定外の退去通知や出費で慌てないように、契約解除のリスクが一般住宅よりも高いことを理解しておく必要がありそうです。
まとめ
それでは、法人契約する際のシェアハウスについて、一般住宅(非シェアハウス)とメリット・デメリットについて簡単にまとめます。
(シェアハウスを法人契約するメリット)
◎初期契約費用・月額賃料が安い
◎社内規定の整備しやすさ(新入社員・中途採用社員一時利用社宅などとすれば導入しやすい)
◎社員満足度の向上(選択肢の増加、個人ニーズに合致した住宅)
〇名目上の人材育成(私生活での多様な生活が人材育成につながる考え方)
(シェアハウスを法人契約するデメリット)
▲居住期間が不安定(定期借家・更新の確実性)
▲居住者間・居住トラブルの責任負担
▲事務コストの増加(一般住宅とさほど変わらない?)
▲ブラック家主が見分けられない、物件調査は自己責任(仲介業者の不介入・家主との直接契約)
シェアハウスは契約初期費用も安く、家具家電やネット環境など生活必需品が整備されているものもあり魅力的な物件も多くありますが、シェアハウスを法人契約で社宅扱いする場合には、以下の内容も確認しておきましょう。法人に貸したいシェアハウス事業者の方は、以下の点をクリアできるか検討してみてはいかがでしょうか。
契約前チェックポイント
☑入居者の責任と負担区分が社宅規程にしっかり明記されているか
☑一般賃貸借契約での契約に変更可能か(定期借家契約ではない契約は可能か)
☑賃料等利用料は双方合意での変更
☑期間内解約による短期解約違約金は1か月以内
☑前払い賃料は翌月分を毎月末払い(自社の支払いサイクルに適合)
☑共同住宅の管理体制(家主自主管理は避ける)
☑連帯保証人(保証会社加入)条件の有無
☑国内非居住者(海外家主)への賃借料源泉徴収事務
おわりに
新型コロナウイルスによって多くの事業者が休業や時短営業を余儀なくされ、またテレワークはじめ在宅勤務等によって対面でのリアルな関係が減少する中、シェアハウスやソーシャルアパートメント、シェアオフィスなど、職場と離れた人間関係を築く物理的集合場所としての新たなニーズが若者を中心に注目されています。社有寮が減少し、プライバシー重視の借上げ社宅が今は主流となっていますが、今後も増加する一人世帯の独身、離婚、単身赴任者など孤独を感じる人々の物心両面の負担を軽減する目的や、日常生活で普段交流することの無い様々な業種・業界の人々と交流することは新たな価値観の発見や個人の成長にもつながるため、今後シェア関係サービスはますます注目されるはずです。個人での利用が広がれば、会社としても利用は避けては通れなくなり、また先行して取り組めば寛容で先進的な会社であることをアピールでき、定着・採用の優位性に寄与します。シェアハウスの社宅利用もあと10年もすればごく一般的になるでしょうから、先んじてチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
【記事監修】RESUS社会保険労務士事務所/山田雅人(宅地建物取引士・社会保険労務士)
大企業・上場企業を中心に10年以上にわたり全国500社以上の人事担当と面談、100社以上の社宅制度導入・見直し・廃止に携わった経験を活かし、不動産仲介業者に向けた事務代行サービスの提供と、不動産に詳しい社労士として中小企業の人材不足解消に向けた制度設計を支援しています。
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